ここは泣く子も黙るはてなブックマーク監獄
凍てつく程冷たいコンクリートの壁。
そこにはおおよそ人など通ることができないであろう鉄窓。
そこから見えるのは真っ青な海と雲ひとつなくどこまでも広がりを見せる空とを綺麗に二分割した水平線だけだった。
はてなブックマーク監獄。
今、私はここに立っている。
今までの歴史上誰一人としてここから脱獄出来た者などいなかった。
脱獄を試みた者は星の数程いたが、全ての挑戦者達ははてな看守の手により無慈悲にも首吊り台へと連れて行かれ、まさしく夜空に燦然と輝く星達になる。
はてなスターのように。
どこまでも果てしなくただ一直線に続く廊下。
そして、約2畳程の広さで作られた牢屋がひたすら並んでいる。
廊下を挟んだ向かい側の牢屋にはこんなヤツがいた。
ノートを破る音とペンでなにかを描き殴る音は静まり返ったこの空間をモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番イ長調K.219を奏でているかのようにさえきこえた。
そして紙ヒコーキがフォルティッシモ的スピードで飛んでくる。
鉄柵の間をすり抜ける様はまるでマエストロがタクトを操るかのようにしなやかに私の足元へと到達する。
そこに描かれているものは毎回必ず決まっていた。
萌画だ。
だがそこに描かれている萌画は暗号と化したMessageに他ならない。
我々にしかわからないであろうその暗号を私は読み解くと直ぐに合図を送る。
この島にはたくさんの青い小鳥達が生息している。我々はこの小鳥達とコミュニケーションを取ることに成功していた。
そう、この小鳥達も我々の仲間なのだ。
私はこの小鳥に暗号を教える。
小鳥はサッと右の羽根をおでこの辺りまでもってきた。
敬礼。
これは了解の合図だ。
この小鳥達の拡散力を侮ってはいけない。
100人に100万円あげるよ的な寝言なども刹那の如く教えてくれる。まさに光の速さで。
そうこうしているとなにやら隣が騒がしくなってきた。
暗号はまた隣の仲間へと伝わったようだ。
私は廊下へ左手を置くと右隣の部屋からもすっと手が出てきた。
その瞬間こちらへ何か滑らしてくる。
それを私はすかさず掴み取った。
それは毎回決まっていた。
スイーツだ。
このスイーツにもまた暗号が隠されている。
今回は一口サイズのまあるい形をした苺味のアイスキャンディだ。大人の苺味。
なるほど。
私はニヤリとしていた。
甘酸っぱくも奥ゆかしい甘美なそれを口の中に投げ入れ一気に噛み砕く。
機は熟したようだ。大人の苺味だけに。
そして、左隣の部屋の仲間に最後の暗号を送る。今回の方法は、例えばシルバニアファミリーのショコラうさぎにプレゼントととしてでも運んでもらおうか。
ぴょこぴょこと歩いて行くショコラうさぎの後ろ姿を見守る私は一瞬呼吸を忘れてしまう程集中していた。
戻ってきたショコラうさぎが持っていたそれが最後の暗号だった。
明宝ハム。
私はビニールを綺麗に剥がすとそのまま齧り付いた。
塩味のきいたソレはダイレクトに私の五臓六腑へと染み渡って行く。
心の中で私はこう叫んだ、君の名は!
全ての暗号は今一つになった。
太陽が沈み月が顔出す。
脱獄決行の夜。
今宵の月は驚く程大きな満月だ。