4k8k衛星放送がいつのまにか始まっていた。
12月某日、世間は師走といわんばかりに慌ただしくも活気に溢れ、人々はこの2018年という一度しか訪れることのない今という瞬間を謳歌しているような、そんな空気感がなんとなく漂っていた。
私は日々の仕事に疲れ果てそんな世間の年末感等全くといっていい程感じることのないまま普段通り、ただただ普段通りにいつものソファのいつもの場所に寄りかかり、気の抜けたスプライトのように天を仰いでいた。
しれっと、2018年の12月1日からBSで4k8k衛星放送が始まっていたのを私はつい最近知ってしまった。
いつも思い知らされるが私のアンテナというやつは、子供が公園の砂場で拵えた気づかない内に踏んづけてしまいそうなくらい低いおやまのそれよりもずっと低い。
もう少し大々的に報じてくれなければ完全にスルーしてしまうところだった。
だが私は見事にというか奇跡的に、その情報を知り得たのだ。
もうどうやってその情報を知ったのかはよくは記憶していないが、しかし知り得た。
この千載一遇の好機を私は自らの手で確かに掴んだ。
地上波ではまだお目にかかることはないであろう人類の叡智4k放送。
その高尚なまでの技術の結晶がBSというelectrical waveに乗せ解き放たれるというのであればこれはもはや刮目するという以外の選択肢を私は持ち合わせてはいない。
さも誂えたかのように50インチという超巨大で、この狭苦しい部屋に似つかわしくない程のサイズ感完全無視の4kテレビがそこには置かれていた。
遂にこの時が来た。
4kテレビがその性能を遺憾なく発揮してくれる時が。
しかし、どういう訳か見方がよく分からない。
調べて見たがなんだかよく分からない。
というか、密かに気付いていたが気付いていないフリをしてしまっていた。
私の脳は本能的にAbsolute Terror Field(絶対不可侵領域)を展開してしまうらしい。
そう、アレである。
ATフィールドである。
私の家にあるテレビに4kチューナーが内蔵されていないのではないかという事実を私の脳が碇シンジばりにATフィールド全開で完全に制圧してしまっていたからに他ならない。
約2年程前に購入した記憶がある。
私の中ではついこのあいだ購入した感覚が身体を支配していた為、まさかこのテレビにチューナーが内蔵されていないようなことはないだろうと高を括っていた。
時の流れというものは自分が思っているよりもずっと速いらしい。
吉野家の一杯の牛丼大盛りを提供する程に速い。
特に電化製品や携帯電話などはものの数年で過去に置き去りにされてしまう。
そう私の家のテレビには4kチューナーは内蔵されてなどいなかった。
勝ち組と言う名の扉を開け放った途端に泥水にドボンというオチが完璧なまでに丁寧に、そして残酷にそれは必然であったかのように周到に用意されていたというわけだ。
昭和を代表する偉大なる功績を残した風雲たけし城という番組級にスリリング且つ爽快なあの一場面を脳裏に焼き付けながら今回のこのどうしようもなく平凡で自動販売機の下にでも転がっていそうななんの変哲もない話はこれで幕引きとしよう。